暖簾(のれん)を見かける機会、昔と比べるとずいぶん減ったように感じませんか?
暖簾とはもちろん、屋号などを染め抜いて店先などに垂らされた布のことですが、呉服やお茶などといった日本の伝統的なお店の数が少なくなったこともあるかと思います。

それでも、お寿司やうどん・そばなどの和食店、赤提灯がぶら下がっているような酒処といった場所では、必ずと言ってよいほど、暖簾を目にすることができます。

暖簾を腕で押した時のように、力を入れても手応えのない様子を表すことわざ「暖簾に腕押し」。

腕押しには、実際に腕で押す、ということに加えて、腕相撲(うでずもう)という意味もあるようです。
ですから同義のことわざには「暖簾と相撲(すもう)」というものもあります。
お互いが力をかけて向き合ってこその相撲、一方の相手が空中に垂れ下がった暖簾のように抵抗が無ければ、
すぐに勝敗がついてしまいます。

そのことから、張り合いのない様を否定的に表現したことわざです。
また、力いっぱい腕押ししてみたところで、後には暖簾は破れることもなく元の状態に戻りますよね。
その様子から、どれだけ熱意を込めて働きかけたところで、こちらの頑張りは空回り、期待した反応や効果は得られることなく無意味、無駄に終わる、という意味もあります。

それでは英語にはどのような表現があるのでしょうか。

"It is like talking to a wall. "(壁に向かって話すみたいなものだ。)

"Pushing water uphill with a rake."  (くま手を使って上り坂で水を押す)
*rake = 熊手

"All is lost that is given to a fool."(ばか者に与えらえれるものは全て無駄になる。)

"It is like talking to a wall. " は、まさに「馬の耳に念仏」!

日本語では、「暖簾に腕押し」には類義のことわざも有名なものがたくさんあり、
「豆腐に鎹(かすがい)」(鎹《かすがい》とは、木材をつなぎとめるコの字型の釘《くぎ》のこと)、
「糠(ぬか)に釘」
「沼(ぬま)に杭(くい)」
「石に灸(きゅう)/泥(どろ)に灸(やいと)」、
「馬の耳に念仏(ねんぶつ)」
「牛の角(つの)を蜂(はち)が刺す」
「蛙(かえる)の面(つら)に水」など

どれも同じような意味ですが、登場する語彙が日本文化ならではであり、それぞれのシーンを想像してみると
ユーモアたっぷりですね!