ない袖は振れぬ
「君に援助してやりたいんだが、実は僕も経済的に追い込まれているんだ。すまないが、無い袖は振れないよ。」

このように、金銭的な援助を申し込まれた時や、返済を迫られた場合に使うことができるこのことわざ。
由来は、着物文化であった江戸時代にあります。

袖(そで)の無い着物では、どうしたって袖を振ることができない・・・つまり、着物の袂(たもと)(=袖部分)が財布を入れておく場所だったため、
「袖が無い」=「お金が無い
を意味し、持ち合わせの無いものはどうすることもできないのだ、という文言を婉曲的に表すことわざが生まれたようです。

そのため、金銭ではなく意見や考えを出す場合に、このことわざを使ってしまうのは誤用となります。

それでは、着物文化の無い海外ではどのような表現があるのでしょうか。
袖=財布(お金)、を意味する「無い袖は振れぬ」の用法は金銭に限られますが、
「無いものはどうしようもない」という意味でお金にもにも、また持ち合わせていない性格スキルなどにも使えます。
では、今回はその様な時に使える英語表現をご紹介します。

ない袖は振れぬ
“Nothing comes from nothing.”
こちらはまさに「無中有を生(しょう)ぜず」ですね。
come from : ~は … からのものである
「無からは、何も出てこない」


“An empty bag will not stand upright.”
『中身の入っていない袋はまっすぐに立たない』
empty :中身のない、空の
upright :まっすぐ立って、直立の、姿勢のよい
なるほど、お金の在り処は「袖」ではなく「袋」の中なんですね!


“A man cannot give what he hasn't got.”
『持っていない物は与えられない』
what he hasn't got :この場合のwhatは関係代名詞で「~もの」と訳します。 what の後ろが he hasn’t got なので、直訳すると「彼が持っていないもの」となります。
この場合の”A man” “he” は「この男の人は」という事ではなく、「人というものは」という意味になります。


“You can't get blood out of stone.”
『石から血を搾り取ることはできない』
out of : ~ から(外に向かって)


“Where nothing is, nothing can be had.”
『何も無いところでは、何も手に入れることはできない』
場所を訊ねる時に使う”where” の後ろに “nothing” が来ると意味を考える際に難しく感じますが、例えば、店先に何も並んでいない状態をイメージしてみるといいかもしれません。

ない袖は振れぬ
“If you squeeze a cork, you will get but little juice.”
『コルクを押しつぶしても、ほんの少ししか汁は得られない』
squeeze : 搾る、押しつぶす
cork : コルク、コルクの栓
little ~ : 僅かのしか、ちょっとのしか、少しのしか
“a little” 少し(ある)から、”a” を取った”little” は「少ししかない」と否定の意味になります。 そのため、「ほんの少ししか汁は得られない」となります。


“Who can hold that they have not in their hand?”
『手に持っていない物を、誰が持てるのか?』
Who can hold~?:誰が~を持つことができますか?


“It is hard to get a stocking off a bare leg.”
『素足から靴下を脱がせるのは難しい』
It is hard to :~するのが難しい
get ~ off : ~を外す、脱がす
bare : 裸の~ 今回は、bare leg 裸の足 なので「素足」になります。

使い方の例!
今回はまだ一般的に会話中で使われる”You can't get blood out of stone.”を使って、その使い方を紹介します。

A: I asked Tom if he could lend me some money.
トムにお金を貸して欲しいってお願いしたんだ。

B: That's impossible!
You can't get blood out of stone.

そんなの無茶だよ。

この場合の"You can't get blood out of stone." はトムに貸すお金がない、という状況かもしれませんし、トムはとてもケチかもしれません。
AさんとBさんの間で「トムってこんな人だよね」という共通認識がある状況です。

英語では、「袋」や、「靴下」に「コルク」などなど、表現の方法や、登場する単語にも国々ならではの文化背景が見えて、本当に興味深いですね。